⽶⾦利5%の重圧、⾞・住宅ローン急減速利払い負担増

 ⾞・住宅ローン

2023/10/24 5:03 (2023/10/24 9:29更新) ⽇本経済新聞 電⼦版

⽶⻑期⾦利が16年ぶりに5%まで上昇し、⽶経済の耐久⼒が試されている。景気やインフレの粘り強さに加え、財政不安にも後押しされた⾦利上昇圧⼒はすぐには収まらないとの⾒⽅が多い。焦点は今後増える家計や企業による⾼⾦利での債務の借り換え、返済だ。負担増に耐えきれず、不履⾏に陥るケースも増えるなど、経済の軟着陸シナリオに影を落としている。

⽶⻑期⾦利の指標になる10年物国債利回りは⽶東部時間23⽇早朝に前週末⽐で0.1%ほど上昇し、5.02%まで上昇する場⾯があった。先週に続き、2007年7⽉以来となる5%の⼤台突破となった。9⽉20⽇の⽶連邦公開市場委員会(FOMC)後の1カ⽉間では0.6%上がり、政策⾦利の動きに敏感な2年債利回りが低下したのとは対照的だ。

強い景気・もろい財政運営

要因は⼤きく2つある。10⽉に公表になった9⽉分の⽶経済統計は就業者数の増加幅や消費者物価指数、⼩売売上⾼の伸びがいずれも市場予想を上回った。市場で景気の強さがインフレ⻑期化につながるとの⾒⽅が強まり、⽶連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換への期待も薄れたことで期間が⻑めの⾦利に上昇圧⼒がかかっている。

財政運営への不安も急速に⾼まった。財政⾚字の拡⼤で⽶財務省が国債の増発に動く⼀⽅、FRBは保有国債を減らす量的引き締め(QT)を進め、国債需給の悪化懸念が強まっている。

⽶議会下院の過半数を占める共和党は下院議⻑解任や後任選びで迷⾛を続け、11⽉半ばにかけて再び政府閉鎖の危機に陥る公算が⼤きい。

「議会が財政を抑制できるほど機能するか、またいつ機能するかもわからない状況がタームプレミアム(期間の⻑い国債に要求される上乗せ⾦利)を押し上げる⼀因となっている。」

⽶債券運⽤⼤⼿PGIMフィクスト・インカムのダリープ・シン⽒はこう話す。「⽶債務の持続 可能性に差し迫った危機が訪れているわけではないが、市場は(健全な財政運営を)実⾏できるか注視している」とみる。

⽶投資ファンド⼤⼿KKRのヘンリー・マクベイ⽒は「基本シナリオでは⻑期⾦利は5%前後でピークを迎える」と語る。急ピッチで進んだ⽶国債売りはいつまでも続かないとの⾒⽴てだ。23⽇は著名投資家のビル・アックマン⽒が⽶国債の空売り持ち⾼を解消したとX(旧ツイッター)に投稿したのをきっかけに、⻑期⾦利は⼀時4.8%台前半まで低下した。

だがマクベイ⽒は国債需給の悪化や賃⾦の⾼⽌まりによるFRBの引き締め⻑期化には警戒を解いていない。市場では景気・物価の過熱感が和らぐまで積極的な⽶国債買いには動きにくいという雰囲気が漂う。

低⾦利時代の恩恵続く

FRBの利上げ開始から1年半を経過してなお⽶景気が強さを保っているのはなぜか。19⽇にニューヨークでのイベントに登壇したFRBのパウエル議⻑は「正確には分からないが、経済が⾦利の影響を受けにくくなっているかもしれない」と語った。

FRBは20年春の新型コロナウイルス流⾏後、ゼロ⾦利政策を2年間続け、国債などを⼤量に買う量的緩和も併せて超低⾦利環境を⽣み出してきた。この間に企業は低い固定⾦利で社債発⾏や銀⾏借り⼊れを増やし、家計も住宅ローンの新規組成や借り換えを活発にしたことで、利払い負担はさほど⾼まっていないという⾒⽅を⽰した。

国際通貨基⾦(IMF)は10⽉公表の国際⾦融安定性報告書で、21年に⽶企業の⾦融資産が負債を上回り、その後の利上げ局⾯で⾦利負担だけでなく保有資産から得られる⾦利収⼊も増えたため、差し引きした純利払い負担は減ったとの分析結果を提⽰した。前回(15〜18年) の利上げ時に純利払い負担が増えたのとは異なる動きという。

借換時に負担急増も

問題はこうした⾼⾦利への耐性がいつまで続くかだ。IMFは社債や融資の満期到来による企業の借り換え需要が24年に5兆ドル以上発⽣し、うち半分を⽶国企業が占めると指摘する。格 下げで資⾦調達コストが増した⽶企業も多い。

10⽉半ばには⽶薬局⼤⼿ライトエイドが利払い負担の急増に耐えかねて経営破綻した。今後の借換時に債務不履⾏や倒産に追い込まれる企業が続出するシナリオが現実味を帯びる。

家計も個⼈消費は総じて堅調な⼀⽅で、すでに⾦利上昇による需要減や負担増の兆候がみえる分野もある。住宅市場では新規にローンを組むことは難しくなり、購⼊を断念する⼈が増えている。9⽉の中古住宅販売件数は年率換算で396万⼾と約13年ぶりの低⽔準になった。

⾃動⾞ローン⾦利も急上昇し、返済に窮する個⼈が⽬⽴ち始めた。調査会社エクスペリアンによると、⽉々のローン返済額は23年4〜6⽉期に約730ドルと2年前から25%増えた。

格付け会社フィッチ・レーティングスの調査では、信⽤⼒の相対的に低い「サブプライム 層」が⾃動⾞ローンを60⽇以上延滞している割合は9⽉にデータを遡れる過去30年間で最⾼を記録した。

FRBのパウエル⽒は19⽇、⽶経済全体の需要はなお強いとして「今が引き締め過ぎだとは思わない」と述べた。⾼⾦利環境を⻑く維持する考えを⽰した。ただ「⾦融政策のラグ(時間差で⽣じる効果)には不確実な要素も多い」とも語り、慎重に政策運営を進める意向を重ねて強調した。

⾼⾦利が時間の経過とともに急速に経済活動を冷やす可能性や、FRBが制御しきれない形での⻑期⾦利上昇といったリスクにも⽬配りしながら、軟着陸達成をめざす難しい航路が続く。