⽶オフィスに⼈戻らず、都市税収に打撃 ⾸都は予算削減

 都市部の財政と不動産

2023/10/15 22:11 ⽇本経済新聞   電⼦版

⽶都市ではオフィスビルの空室が⽬⽴つ(7⽉、ワシントン)

【ワシントン=⾚⽊俊介】
⽶国で新型コロナウイルス禍をきっかけに在宅勤務が定着し、都市部の財政が打撃を受けている。オフィスの評価額が下がり、主要財源の固定資産税が減るためだ。福祉予算の削減など政策にも影響が及ぶ。

「テレワークの普及による影響は明確だ」。⾸都ワシントンのバウザー市⻑は同市の予算案を承認するバイデン⽶⼤統領にあてた書簡で窮状を訴えた。

ワシントンの財政責任者によると、2025会計年度(24年10⽉〜25年9⽉)から27会計年度 にかけて商業⽤不動産から発⽣する固定資産税が年平均0.6%減る⾒通しだ。計4億6400万ドル(約700億円)の税収が減る計算だ。

ワシントンの議会は24年度予算で税収減に伴い、幼児教育に携わる労働者の特別⼿当や⼦育て⽀援⼿当を廃⽌した。安価な住宅に⼊居できる低所得者向けの予算も削った。

在宅勤務が広がり、企業は借りるオフィススペースを減らしている。不動産サービス⼤⼿のシービーアールイー(CBRE)によると、ワシントンのオフィスビルの空室率は23年4〜6⽉で20.4%と、コロナ前の19年同期より7.7ポイント⾼い。


⽶国ではコロナ収束後もオフィスの空室率は⾼⽌まりしている。全⽶不動産協会(NAR)によると、23年4〜6⽉の空室率は13.1%だった。19年同期から3.7ポイント上昇した。

オフィスの空室率上昇は不動産の課税評価額が下がる⼀因となる。評価額は⾃治体が家賃収⼊や事業費に基づいて毎年算定するのが⼀般的だ。評価額の増減は翌年などの税収に反映される。評価額が下がれば⾃治体の税収が減る。

在宅勤務が多くの企業で定着し、⼈が以前のように街中に戻ってこない。オフィスビルが多い都市部の財政は厳しくなる。

⻄部カリフォルニア州サンフランシスコは23〜25会計年度に計7億7980万ドルの財政⾚字となる⾒込みだ。オフィスの空室率は25年半ばから26年にかけて33%となると予想した。19 年4〜6⽉は5.1%だった。

商業⽤不動産の価値は全⽶で下がっている。⽶不動産調査会社グリーンストリートによると、価格指数はコロナ収束で需要が回復して22年4⽉にピークを迎えたものの、その後は息切れしてコロナ前の⽔準を下回る。

⽶コロンビア⼤と⽶ニューヨーク⼤の教授らが発表した論⽂によると、オフィス需要の低下で東部ニューヨーク市の商業⽤不動産の総資産価値はコロナ前と⽐較し、29年には4割下がる可能性がある。

ニューヨークの財政は不動産の固定資産税が⽀える。23会計年度の税収を⾒ると、全体の42%が固定資産税だった。このうち3割ほどがオフィスビルなどの商業⽤不動産から発⽣する。

固定資産税が減れば、増税を迫られたり歳出削減を余儀なくされたりする。すると都市の魅⼒が下がって、⼈⼝減を招き、さらなる財政難につながる――。コロンビア⼤などは悪循環 に陥る可能性を指摘する。

地⽅政府は商業地区の⽴て直しを急ぐ。

東部マサチューセッツ州ボストンやワシントンなどは商業地区のオフィスビルを住宅⽤不動産に転⽤する際、転⽤後の固定資産税を⼀部免除すると発表した。⼀時的に税収が減っても不動産の価値が戻れば、⻑期的には税収増につながるとみる。

市政府は⺠間企業のビジネス活性化地区(BID)と協⼒し、商業地区の魅⼒向上に⼒を⼊れている。

ワシントンのBID「ゴールデントライアングル」は空室を抱える地主と地元のビジネスをつなげて、オフィスをイベントスペースとして活⽤している。レオナ・アグリディス代表は「(イベントや住居への転⽤を通し)地区の魅⼒を向上することで企業が戻ってくる」と商業地区の再活性化に期待を⽰す。