ジンヤ、米ラーメン最大手の肝 「強い現場」より仕組み

 米ラーメン

2024/3/4付 日本経済新聞 朝刊
ジンヤ、米ラーメン最大手の肝 「強い現場」より仕組み 編集委員 奥平和行

「いらっしゃい!」。ドアを開くと、店員の威勢のいい声が耳に飛び込んできた。着席して選んだのは生ビール、ギョーザ、ユズ塩ラーメン。日本ではおなじみの光景だが、厨房にも客席にも日本人は見当たらない。というのも、ここは米南部テキサス州オースティン市だからだ。

「ジンヤ・ラーメン・バー」は2010年、米ロサンゼルス市郊外で誕生した。現在は20州・地域に広がり、カナダを含む店舗数は60に達する。全米最大のラーメン店チェーンへと育ち、運営会社の米ジンヤ・ホールディングス(HD)は3年以内に100店超まで増やすことを予定している。

世界最大の外食市場である米国は懐が深い。マクドナルドなどの「米国料理」のチェーン店に加えて、数千の店舗を展開するメキシコ料理のチポトレや中華料理のパンダエクスプレスがしのぎを削る。しかし、日本食となると各地で人気店は増えたが、チェーン展開の成功例は乏しかった。

なぜか。ジンヤHDの高橋知憲最高経営責任者(CEO)がチェーン展開を始めた直後に痛感したのは「仕組み」の重要性だ。日本では食材の供給で卸会社に頼れるが、米国は勝手が異なる。米外食大手でサプライチェーン(供給網)の構築・運営を担当した経験者を雇い、各店に食材が滞りなく届く体制を敷いた。

ラーメンの重要な要素であるスープにも工夫がある。店舗で毎日、鶏ガラや豚骨を炊けばおいしいスープを作れるものの、出来不出来の差が大きくなりがちだ。工場で作ったスープを利用すれば品質は安定するものの味は作りたてに及ばない。ジンヤHDでは双方を混ぜて使うことで「いいところ取り」を狙った。

同社の試行錯誤の背景には、日本企業が頼りにしてきた「強い現場」を前提にしない姿勢がある。現場がしゃにむに頑張ることで仕組みやマニュアルが不十分でも日々起きる問題に対応でき、業務は回る。カイゼンが日本企業のお家芸になったのも現場力が高かったからにほかならない。

一方で強い現場には弊害もある。現場ごとに業務の進め方がバラバラになると情報システムの導入などによる効率化を妨げ、不正の温床となった事例すらある。海外展開もそのひとつで、ジンヤHDの高橋CEOは「現場の頑張りだけで100店舗にするのは無理。仕組みが不可欠だった」と振り返る。

日本在外企業協会が1996年から実施している「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート」によると、「人材の確保と育成」が一貫して対処すべき課題の上位に入っている。日記事利用について本企業が長年にわたり海外で「人材」で苦戦し、成長の阻害要因となってきたことを浮き彫りにしている。

足元では新型コロナウイルス禍が去り、再び海外展開を成長戦略の主軸に据える企業が増えてきた。だが、各地で人材不足や優秀な人材の争奪戦は激しくなるばかりだ。進出先で古くて新しい課題に直面する可能性が高く、現地事情に合わせて仕組みをつくり磨きあげたジンヤHDの軌跡は示唆に富む。

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