ハワイ⼭⽕事、有害物質が阻む早期再建処理費1500億円

 ハワイ⼭⽕事

2023/10/21 1:51 ⽇本経済新聞 電⼦版

【ニューヨーク=⻄邨紘⼦】ハワイ・マウイ島で8⽉、住宅地に⼤きな被害を出した⼭⽕事で、建材や⽇⽤品の燃焼で発⽣した有害物質による汚染が復興を遅らせている。除染や廃棄物処理には半年から1年の期間と、10億ドル(約1500億円)規模の費⽤が必要となる⾒通し。州政府には負担が重く、⽶連邦政府が⽀援に乗り出した。

⽴ち⼊り制限、安全に懸念

⼭⽕事で⼤きな被害を受けたマウイ郡ラハイナでは、10⽉はじめ、⾏⽅不明者の捜索と爆発物や危険物の特定、処理が終了し、⼀部地区でようやく住⺠の⽴ち⼊りが許可された。郡当局は「焼け跡を訪れたい気持ちは分かるが、安全が確保できない」として、無断⽴ち⼊りに刑事罰も科す厳しい対応を取ってきた。

⼭⽕事ではラハイナの中⼼地はほぼ全焼、被害は2200軒に及ぶ。ラハイナには築年数が50年を超える建物も多い。発がん物質のアスベストや中毒性のある鉛など、現在では使⽤が禁⽌された建築材が建物に使われていた可能性があり、⼤気や灰、⽔道などに残る懸念もあるという。マウイ郡は⾃宅跡を訪れる住⺠に⾼機能マスクの着⽤を推奨している。灰に残るアスベストを誤って吸い込まないよう「⽪膚をなるべく出さない」「灰が⾶び散らないよう、静かに動く」「着替えを持参する」など安全確保に向けた詳細なガイダンスを公表した。

⽴ち⼊り許可を得た住⺠が現地でできることは「気持ちの整理や保険請求に向けた査定」(マウイ郡)。⾃宅再建への道のりは遠い。

住宅⽕災、有害物質が拡⼤

⼤規模な⼭⽕事では有害物質の発⽣が避けられない。煙に発がん性のあるベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)、PM2.5(微⼩粒⼦状物質)、オゾンなどが含まれる。温暖化ガスの問題に加え、煙を吸い込むとぜんそくの悪化や呼吸器官の炎症などの健康被害を引き起こす可能性がある。

⼭⽕事の被害が住宅地に及ぶ場合、問題は複雑さを増す。カーペットなどの化繊や建材、家電、様々な⽇⽤品や⾞が燃えることで、発⽣する有害物質の種類がさらに増すためだ。

⽕災汚染の問題を研究する⽶パデュー⼤学のアンドリュー・ウェルトン教授は、⼭⽕事で発⽣した有害物質が地表に積もり「畑や庭⼟に染み込めば、家庭菜園や農作物を汚染したり、河川や海に広がったりする懸念がある」と指摘する。

⽔圧が低下した⽔道管に有害物質が流⼊したり、プラスチック材の⽔道管が⾼熱で変質したりすることにより、飲み⽔が有害物質に汚染される懸念もある。

建物の燃え残りや灰が積もった地⾯の表層や⽔道管の⼊れ替えを含め、汚染物質の迅速な撤去が再建の鍵となる。ハワイ州内やマウイ島には有害物質の処理施設がないため、焼け跡の廃棄物は船で⽶国本⼟に運ぶ。9⽉、⽶連邦政府はハワイ州の要望を受け、当初は連邦政府が9割、州が1割負担としていた処理費⽤の分担を連邦政府の全額負担に切り替えた。

住宅地に迫る⼭⽕事が増加

ウェルトン教授は森林に近い宅地開発などによって⼭⽕事が住宅地に及ぶ被害が「近年、桁違いの規模で増えている」と指摘する。⽶国では⽕災で有害物質が発⽣しても、⽔道⽔の汚染を調べる安全検査に統⼀基準がないなど「対応は道半ばで、安全確保に向けた課題は多い」(同教授)。

国連環境計画(UNEP)は22年の報告書で、温暖化により⼤規模な⼭⽕事が発⽣するリスクが⾼まり、発⽣頻度は30年までに最⼤14%、2100年までには最⼤50%上昇する可能性があると結論づけた。有害物質への対応の重要性は今後増しそうだ。