⽶住宅市場停滞、新築販売8.7%減 ⾼⾦利で買い替え鈍く

 ⽶国の住宅市場の活動

2023/9/27   9:10 ⽇本経済新聞  電⼦版

住宅市場に出回る物件の不⾜が続く(ペンシルベニア州)=AP

【ニューヨーク=⻫藤雄太】
⽶国の住宅市場の活動が停滞している。8⽉の新築住宅販売の減少率は11カ⽉ぶりの⼤きさだった。⾼⾦利環境で中古物件も含む販売低迷が続く⼀⽅、物件売却や買い替えの動きも鈍く、在庫不⾜で住宅価格には上昇圧⼒がかかっている。住居費の⾼⽌まりはインフレ抑制をめざす⽶連邦準備理事会(FRB)の政策運営にも影を落とす。

⽶商務省が26⽇発表した8⽉の新築⼾建ての販売件数(季節調整済み、年率換算)は前⽉⽐8.7%減の67万5000⼾だった。減少率は2022年9⽉(11.1%)以来の⼤きさになった。

⽶住宅市場で主流の中古物件の売買も振るわない。全⽶不動産協会(NAR)によると、8⽉の中古住宅販売件数は404万⼾(同)と前⽉から0.7%減り、3カ⽉連続でマイナスになった。

販売減の主因は買い⼿の購買意欲の冷え込みだ。⽶連邦住宅貸付抵当公社(フレディマッ ク)によると、FRBの利上げ開始前の21年末は3%程度だった30年固定型の住宅ローン⾦利が⾜元では7.2%に達する。およそ22年ぶりの⾼⾦利負担が重くのしかかり、需要が細っている。


住宅市場に出回る売り物が少ないという事情もある。NARは8⽉時点の住宅の在庫が110万⼾にとどまると試算する。1年前より14%少なく、新型コロナウイルス禍前の19年の⽉平均(174万⼾)を4割近く下回る。

FRBがコロナ対応の⾦融緩和を講じていた20〜21年ごろは、住宅保有者が値上がりした物件を売り、低⾦利の住宅ローンを借り⼊れて新たな物件に住み替える動きが活発だった。現在は⾼⾦利での借り⼊れをちゅうちょして、低⾦利ローンで買った住宅を⼿放さない「ロックイン効果」が⽣じている。

歴史的な⼤幅利上げが需要だけでなく供給も抑え込んだ結果、需給のひずみが住宅価格の上昇という形で表れている。

⽶連邦住宅⾦融庁(FHFA)が26⽇発表した7⽉の全⽶住宅価格指数(季節調整済み)は前年同⽉⽐で4.6%上昇した。同指数の上昇率は22年2⽉に直近ピークを付けた後、15カ⽉連続で縮⼩していたが、この2カ⽉で再び加速している。同⽇発表のS&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズの住宅価格指数も7⽉は1%上昇した。

NARのチーフ・エコノミスト、ローレンス・ユン⽒は「住宅価格上昇を緩やかにするためには供給が倍増する必要がある」と指摘する。


住宅メーカーの戦略の変化を指摘する向きもある。

財務余⼒のある⼤⼿メーカーは顧客の購買意欲を⾼めるため、値下げや⾦利負担の⽴て替えといった販売促進策を提供して需要を下⽀えしていた。だが最近は販売の持ち直しなどを⾒込んで「インセンティブを縮⼩し始めた」(調査会社パンテオン・マクロエコノミクスのキーラン・クランシー⽒)との⾒⽅が出ている。

住宅価格の上昇が再び勢いづけばインフレ再燃のリスクも⾼まる。⽶国では住宅価格が上がり購⼊を諦めた⼈が賃貸物件に流⼊し、家賃相場にも上昇圧⼒がかかっている。家賃などの住居費は⽶消費者物価指数(CPI)の構成品⽬の3分の1以上を占め、FRB⾼官も動向に神経をとがらせる。

「住宅需要はコロナ禍を経て在宅・遠隔勤務が普及し、格段に強くなった」。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は9⽉、供給不⾜だけでなく根強い需要も住宅価格の持ち直しの⼀因だと指摘した。FRBは需要を抑制する⾼⾦利環境を維持することで住宅分野を含むインフレを抑え込む姿勢を強調している。

⾜元では⾃動⾞⼤⼿のストライキ拡⼤や政府機関の閉鎖リスクの⾼まり、学⽣ローンの返済再開など⽶景気の軟着陸を阻むリスク要因も⼭積する。住宅市場に象徴されるような需給のゆがみで⽣じるインフレ圧⼒に⾼⾦利で対抗し続けるのは危うさもある。